深水黎一郎『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!』

なんか久々に書評とかも見ず全く知らない人の新刊を*1書店で思いつきで買って読んだな。ま、何が魅かれたってわけでもないんだけどね。一応、ウリは“読者が犯人”という不可能ミステリを初めて可能にしたというところのようなのですが、確かに自分は読んだことは無いけどそれ系の本はいくつか聞いたことあるよな、という気はするのでその辺はあんまり期待してなくて。ただ、パラパラとめくったページに福来友吉に関する話が書かれており、うわっ、これって超心理学方面にかなりイっちゃってるヤバめの本かも!と思い、なんかあぶないもの見たさ(?)で購入してしまった感じ。
ちなみに、その辺のヨミは正解。福来友吉の後にも、クロワゼットの透視捜査も完全肯定するような事を登場人物の中で権威を持たせてある学者に言わせてるし。ストーリーの横道で超能力トリックのネタバラシ的な話も出てきてるし、ホントはそっち系の話が書きたかったのかもね。で、その辺の話も関係ないようでちゃんとリンクしてくるんだけど、一応本筋は推理作家のもとに誰も実現していない最後の不可能トリックである“読者が犯人”のアイデアを1億円で買わないかと言う手紙が届くところからはじまるストーリー。
まぁ、タイトルが全てで全編とおして“どうやって自分が犯人になってしまうんだろう”と思いながら読み進めていくストーリーになるんですけど。はい、確かに読者が犯人になるトリックが書かれていましたよ。不可能ミステリが実現してはいましたが…。ただ、今後“意外な犯人のミステリ”が語られる中で“読者が犯人になるミステリ”としてこの本が肩を並べることは…無いかなぁ。なんか、殊脳将之の『黒い仏』の読後感に近いモヤモヤも一緒にかかえちゃった感じ(黒仏はあれはあれで、今となってはちょっと味が出てきてますけど)とでも言いましょうか。としか言えませんね。
個人的には、劇中劇というかそのままストーリーにつながってもいく話なんですけど、作中に登場する男が“覚書”として自分の幼少時代を語る話がありまして。こっちの話の方がなんか甘酸っぱくて、D.T.好みしそうな話になっててちょっと好きかも。小学校を卒業する直前に幼馴染の女の子と一緒に星を見るシーンはかなり良いです。こっち膨らませて別の話にしません?って感じも。
ちなみに、この“読者が犯人”の不可能トリック。一応、私も以前からひとつアイデア的なものは持ってたりするんですけどね(面白いかはともかく)。ただ、さすがに今の生活してたら作品に起こすのなんてとてもじゃないけど時間とか無いし。あ、そうか。誰かこのアイデア1億円で買いませんか?。

《追記 2007.4.21》
私的に“メフィスト賞を語らせたら右に出るものは…”的な存在のmk2さんからも感想があがる。“『犯人は読者』であって『犯人はあなた』では無い”。なるほど、たしかにそうかも。ってか、作者的にはそれも出来てる気でいるんだろうけど、なかなかそう読み取る(俺が犯人かぁ!?って思う)のは難しいかなぁ。

*1:ま、この本でメフィスト賞とってデビューなんだけど