鴻上尚史『ヘルメットをかぶった君に会いたい』
鴻上さん初の小説とのこと。そうなのか。小説を書くって言って、編集者と約束しているみたいな話は10年くらい前から聞いてたような気がするけど。とはいってもこれは小説なのか?。この小説の主人公は鴻上さん本人であり、本人のエッセイ的な語りで進行していくため、しばらく読み進めたあたりでなんかSPA!に連載中の『ドンキホーテのピアス』でも読んでるんじゃないかって感じがしてくる。かと言って自伝小説なのかっていうと(ま、かつての回想なんかもあってその辺はコレまで読んできたりラジオで聴いてきたりしたエピソードだったりもするんだけど)現在進行形の話がストーリーの軸になっている。んじゃドキュメンタリーじゃんって言うとそうでもなくて、後半の数章はあきらかにフィクションだしってな事で、なんか(“小説”って言いきっちゃう所が上手いんだって気もするけど)これまでにない感覚の小説を読んでた感じです。
とはいっても、どうも最初はリアルタイムで現実と同時進行するドキュメンタリー小説って感じで始めたんだけど、途中でどうも志向しているところに落ちたら小説として公表できない内容になっちゃったからフィクションを混ぜていきました感もあるんだけどね。あ、そういえば小説の内容をまだ言ってなかった。鴻上さんが深夜の通販CMで見た70年代音楽のオムニバスCD、その紹介映像に流れる学生運動の女性に会いたいと願って、捜してって事を実際に行いながら進行していく話なんですけどね。んで、その辺を当時の時代背景や自分の過去の回想を交えながら、実際にネット上の掲示板に捜索のスレッドを立てたりしてっていう実際の行動をそのまま小説形式に綴られているんですけど。その掲示板の過去ログなんかがかろうじて残ってるのも並行して見たりもしたんですけど、雑誌連載当時*1はどうも彼女の仮名は実際の名前と同じイニシャルで書かれていたようなんですけど、出版されたこの本では“Aさん”になってるってところもどうやら当初の予定と違うハプニングが起きたんじゃ感もしますよね。ま、読んでいけば、仮にこの彼女と会うことが出来たとしてもそれは書けないよねって事になっちゃった事情はわかってくるんですが*2。その辺の“どう転ぶかわからなかった”的な部分はリアルタイムで読んでたら面白かったかも。
ただ、この小説を書いていた当時の鴻上さんの公演を観たり、エッセイを読んだりはしてるわけだし、その辺がストーリーとリンクしてくる部分はファンだけがこの小説で追加で楽しめる部分。特にKOKAMI@network名義での公演『リンダリンダ』については、実際に公演を行っている舞台裏*3での出来事とかから、ストーリーにフィクションとしてこの『リンダリンダ』の世界観が混じってくるあたりはどこまでが現実でどこまでが虚構かが混乱してくるような良いバッドトリップみたいなのを味わえていい感じでしたね。てな感じで、ほっとんど内容に触れずに感想かいてますが、とにかくデリケートなテーマなんで。この辺のリアルタイム小説形式はなんかまだ面白の幅が広げられそうなんで、今度はどう転んでもエンタテイメントに出来るようなテーマでやってほしいかな。
俺内ランキング(2006.5.12現在)