山口雅也『13人目の探偵士』

実はこの本、最初に読み始めたのは去年の夏休みの旅行中だったんですが、舞台がパラレルワールドの英国。で、その英国は探偵士が首都警察より力を持っており、エドワード法により…っていう前提の話がなんかくどくて、その上、テレビのインタビュー形式の章があったり、折り込んである新聞形式の章があったりとかなりトリッキーな書き方してあるんで、一回投げ出していたんです。で、今回改めて読みなおしてみたわけなんですけどね。
ストーリーは童謡のとおりに殺される13人の探偵士たち。その12番目の殺人から話は始まり、巻き込まれ現場に取り残されてしまった記憶喪失の男が探偵士に助けを求める。ここで、3人の探偵士が登場するのですが、どの探偵士を選ぶかで別々のストーリーが展開していき、どの探偵士を選んでも解決に辿りつくのだという。なんだか、昔のゲームブックみたいだな、と思ったらあとがきによると元々ゲームブックだった作品を加筆改稿したモノらしい。どーりで*1。とは言っても誰か1人だけで読み進むのもなんか薄っぺらいし“できたら結末は3つの選択肢を全て読んでから”なんて書いてあるところからも、それぞれを平行して読んでいくのが正しい読み方なんでしょうね。
この3人のストーリーもそれぞれパラレルワールドでの話という形で進んでいき、それぞれ違った視点から捜査をしていくので“もしあの時あっちを選んでいたら”を全部楽しめる。さらに、各ストーリーの中でも選択肢があらわれ、誤った選択をした後には記憶が曖昧になり、気付いたら選択肢の前の場面に戻っていて逆の選択が出来るという展開があり(これはゲームブックだった時バッドエンドの名残だね)、なんかちょっと西澤保彦の『七回死んだ男』の“反復落とし穴”みたいな感じで、これは楽しめました(ちなみに『七回死んだ男』の元ネタになった映画『恋はデジャ・ブ』は観ていないんですが、私の好きな洋画ベスト1の『ラン・ローラ・ラン』も同様にちょっとスタートがずれた3つのストーリーが展開する話だし、もっぱらこーいうの好きみたいですね、私)。
ちなみに、探偵しか出てこないストーリーと言いつつかなり探偵を小ばかにした展開で(ま、探偵士の聖典が『緋色の研究』って時点で既にホームズを小ばかにしているけど)、この3人の探偵士も・・・なんですが、いや、最後の解決はゲームブックの読者層向けっぽくはあるものの、かなり良かったですよ。『七回死んだ男』では無かった“反復落とし穴”の理由付けも一応あったし(これは無くても良かったけどね…)。

*1:ちなみに、私より下の世代だとゲームブックなんて知らないだろうな。テキストアドベンチャーRPGを本でやるようなヤツね。選択肢が出てきて“Aに行くなら〇〇ページへ Bに行くなら××ページへ”みたいな感じでした