雫井脩介『犯人に告ぐ』

ちょっと話題になった時期からは遅れましたが読んでみました。なにしろ、ふれこみが“劇場型犯罪VS劇場型捜査”です。グリコ森永事件好きとしては“劇場型犯罪”って言われちゃった日にゃあ読まな、って感じで購入しました*1。図書館ですげー“予約待ち”だったし。
最初は、この“劇場型捜査”ってのがなんだろうって感じだったんですが、テレビのニュースを使って公開捜査をするというもの。“あれっ?こういうのって珍しいの?なんか超能力とか胡散臭いの挿みながら犯人捜したりとかってなかったっけ?”って思ったんだけど、捜査官が自らテレビに出て犯人に呼びかけて、ってのは有り得ない話なのね。なるほど。ちなみに、読む前は、映画『誘拐』みたいなのを想像してたんですけどね。
で、読んでみて“バッドマン”と呼ばれる犯人との攻防であったり、冒頭に出てくる“ワシ”と呼ばれる犯人のやり方だったりってのは非常に面白く、結構一気に読んだのですが、ちょっとだけ苦言。この本、この捜査ともうひとつ、平行して“キャリア組上司の私欲による捜査妨害との闘い”が進行し、こっちはこっちで最後の治め方なんかは“してやったり”って感じで面白いんですが、2つのストーリーが最後に融合して…というわけではなく、だんだん離れていってそれぞれ全然別の落とし所に落ちていくんですね。
この2つの話、それぞれに面白いだけにひとつの話の中でやられてしまうと両方とも消化不良って感じ。特に“バッドマン”とはもっと駆け引きを繰り返して、激しく頭脳戦を闘ってもらいたかった。とりあえず、この本としては“劇場型犯罪VS劇場型捜査”がテーマなんだしね。まずはこっちをじっくり書いた上で、警察内部での上司との闘いは“巻島捜査官シリーズ第2弾”とかでやって欲しかったかな(ん?“ワシ”の部分も1本の話に出来そうだし、分けるとしたら3つかな?)。神奈川県警が舞台だから、やっぱり警察の腐敗も書かざるを得なかったんでしょうか。
ちなみに、東京出身で現・横浜市民の私としては、出てくる地名が仕事で行った所なども含めてほぼ全てビジュアルで思い浮かぶくらいの場所なもんで(それこそ、最後の“掌紋獲り”のローラー捜査が現実に行われれば、自分も対象になってるはずなくらい)、そういう意味ではかなり楽しかったんですけどね。ただ、そこまで細かい実際の地名が出てきちゃうと、逆に“これ、関東以外の人は読んでてわかってるんだろうか?”っていらん心配しちゃったりしてしまうんですが。普段、ほかの場所が舞台の話もフツーに読んでるくせにね。

*1:あ、劇場型犯罪を肯定するわけじゃないですよ。小説ならいいけど、実際の犯罪はいけません。いやぁ、こういう事買いとかないと。“万引きは犯罪です”ってテロップ流しても抗議来ちゃう時代だからさ